サイエンスアゴラ2013

インタビュー

横浜国立大学名誉教授 奥田 重俊先生に聞く
 「河川の生物多様性〜外来種と在来種〜」

聞き手:赤澤 豊

横浜国立大学名誉教授の奥田重俊先生に植生からみた河川の生物多様性〜外来種と在来種〜についてお話を伺いました。先生は、多摩川をはじめ全国で長く植生調査をされてこられ、植物社会学の第一人者として、これまで多くの業績を上げてこられました。植生学は、徹底した現場検証主義で経験を積むことが大切であるというお考えから、現在も野外に出られて熱心に後輩の指導に当たられています。

お話のとりまとめとしては、自然環境分野の人材の育成という視点から、自然教育のあり方についてもお話をしていただきました。


赤澤:最初に河川環境の特徴についてお伺いしたいと思います。

奥田 重俊先生

奥田先生:河川は,増水や洪水といった物理的な影響を強く受けるため、河原は撹乱されて不安定な環境になっています。また、人為的な影響としては、川幅は狭められていること、取水により水量がコントロールされていること、人の利用により河原の自然が変えられていることなどが挙げられます。特に都市河川は、生活排水などの水の汚れとった化学的な影響など様々な人の影響を受けています。
 自然環境からみれば、人が近くに住んでいない河川が、「いい川」と言えますが、日本の河川のほとんどは、基本的には何らかの人為的影響を受けています。

赤澤:そうした自然や人の影響を受けている河川の植生とは、どのようなものですか?

奥田先生:堤防は集落や耕作地などの利用が少ない地域では水際から遠い位置に設置されることが多いのですが、市街地などの人が多く住んでいる地域では水際に近い位置に設置されます。この堤防から川側の範囲が河川域になります。河川の水際に近いところでは、ミゾソバなどの一年草の群落が生え、水際から離れるに従ってツルヨシやオギなどの多年草の草原、ヤナギなどの低木群落、エノキやムクノキなどの高木林へと続きます。
 一般的に山地など在来種で構成される自然空間には、外来種は生育せず、人為的な撹乱があるところで見られます。つまり、安定した環境では外来種は侵入しにくいのです。河川は、突発的な洪水や増水のたびに河原の土壌は撹乱され、流され、不安定な状態になり、外来種が侵入しやすくなります。また、河川の植物は、洪水により広く拡散されるため、繁殖力が強い外来種は、分布域を広げやすい環境であると言えるでしょう。そうした結果として、河川では陸地など他の環境と異なり、きわめて外来種の割合が高くなっています。

赤澤:外来種は、在来種や自然環境にどのような影響を与えているのですか?

奥田先生:外来種が増えることにより在来種の生育環境が奪われたり、外来種が光や水、栄養分を使うため在来種の生育に影響を与えます。こうした外来種の繁茂により農作物や林産物への影響が挙げられます。しかし、一番恐ろしいのは、私は遺伝子の撹乱だと思います。
 多摩川にも繁茂している特定外来生物のアレチウリは、同属の種が日本には生育していません。しかし、同じく特定外来生物のオオカワヂシャの場合は、同属である在来種のカワヂシャと交雑し、雑種を作ります。また、ヤナギは、種間雑種が多いのですが、多摩川の例では、逸出したシダレヤナギと日本の在来種のコゴメヤナギとの雑種と思われる個体が見られます。こうした遺伝子の撹乱は、二度と元に戻すことができない重大な影響であると言えます。

赤澤:河川は、外来種が侵入しやすい環境であるということ、また、外来種は、様々な悪影響を在来種に与えているということですが、外来種の防除するためには、どのような方法があるのでしょうか?

奥田先生:結論から申し上げますと外来種を防除する有効な方法はありません。例えば、ブタクサを食べるブタクサハムシによる生物学的な防除方法などが研究されています。ブタクサハムシは、外来植物のブタクサを主食とし、枯死させることもあると言われていますが、ヒマワリなどの栽培植物を食害し、また、ブタクサハムシ自体が外来種であるという課題があります。生物学的な防除方法は、局地的な効果しかないと思われます。
 基本的には、人力で除去することが誰でもできる簡単な方法ということになるでしょう。

赤澤:そもそも、なぜ日本に外来種が入ってきたのですか?

奥田先生:江戸時代は、海外との交流は少なく、外来種が侵入するチャンスはありませんでした。海外との交流がなければ、例えば、海を泳げないアカミミガメは、日本に入ることはありませんでした。明治以降、特に戦後の経済発展で生活が多様化し、緑化や園芸作物など様々な植物が日本に入ってきました。つまり、外来種の問題は、生物側ではなく、人間の側の問題である言えると思います。

赤澤:最後に外来種の侵入や分布拡大は、人の問題ということですが、在来種の保護や外来種の防除のための自然教育のあり方についてお考えをお聞かせください。

奥田先生:植物の観察会では、目の前の植物だけを見るのではなく、生育地の地形や直接間接的な人の影響など、河川環境の全体を見ることです。また、ヘビが出たりハチが襲ってきたりクモの巣に悩まされたり予知できないハプニングを経験することが、自然に対する観察力を養うことになります。自然教育・環境教育は、教室の中では学ぶことはできません。つまり、実際に野外に出て経験を積むことで、おのずから在来種や外来種、生物多様性について学ぶことができると思います。

赤澤:今日は河川植生をテーマに大変分かりやすいお話をありがとうございました。私も「現場(野外)から」を忘れずに、これからも活動をしていきたいと思います。

 










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